少人数私募債は銀行など金融機関からの一般的な融資と比べ会社にとってリスクの少ない資金調達方法です。手続きの簡略さ、社会的評価の向上、比較的ローコストに発行できるなど数々のメリットがあります。ここでは具体的にどのようなメリットが存在するのかを紹介いたします。

■ 発行手続きは簡素

 通常、金融機関から融資を受ける場合、多くの手続きを踏まなければなりません。融資の申込、審査、承認、契約締結、担保権の設定、信用の度合いによっては保障協会への申請、貸出実行を経て、ようやく借入資金が預金口座に入金されます。もちろん利息や融資額などは、交渉にもよるのですが最終的には銀行が決定することになります。
  しかし少人数私募債は、会社であれば取締役会の決議を経て所定の手続きを実行するだけで発行することができます。特に中小企業は取締役会といっても親族が中心でしょうから、すぐに開催できるのではないかと思います。
  しかも少人数私募債は発行金額、利息、償還方法なども自社の裁量である程度自由に決められるので、取扱いが銀行の融資とは比べ物にならないほど極めて容易な社債といえます。また複雑な行政などへの届出の必要がないことも会社には大変ありがたいことです。面倒な手続きや外部審査がないので結果的に短期間、機動的に発行できることになります。これは非常に大きなメリットといえるでしょう。

■ 格付評価が高まる効果

 少人数私募債の発行によって、自社役職員、取引先等から資金調達ができるということは、社長や会社が信用されているということになります。また有力な購入者、例えば上場企業や地場の優良企業、知名度の高い会社、経営者などが引き受けた場合、発行会社に対する金融機関や新規取引先の格付け評価は高まる効果があるとされています。社会的に実績のある人や企業が支援してくれる会社は安定、信用できるということなのでしょう。直接金融である少人数私募債を発行することによって、間接金融である金融機関の評価が上がるというのは、相乗的なメリットといえるでしょう。

■ 社債管理会社不要

 社債を発行するには、条件として社債管理会社を設置する必要があり、委託関連手数料などの運営コストがかかります。これに対し少人数私募債の場合は、自社で運営管理を行いますから、社員の人件費は別としてコストは一切かかりません。しかも社債管理会社が不要ということは委託の手続きをしなくて済むということで、この面でも時間の短縮になります。
  ただし少人数私募債は歴とした正規の社債ですから自社で管理する必要があります。もちろん、購入していただいた方には利息を支払う必要があり、元金の償還期日がきたら返済するのは当然のことです。社債管理会社が無いからといって、いい加減に扱ってよいということではありませんので慎重に管理して下さい。
  また新会社法上では、社債券は発行しないことが前提となっています。発行体は社債権者に対し、勧誘中に社債券不発行の旨を告知するか、発行(募集)要項に社債券不発行の旨を記載し交付しておけば支障ありません。ただし、大口の社債権者の方がいる場合は、社債券を印刷してお渡しするのが私見では親切だと思います。前述のように社債券を発行した方が良い場合もありますので、初めて社債を発行する際は、社債券を発行しておくことをお勧めします。
  社債券の印刷コストはおおよそ15万円から20万円程度です。どこでも印刷することはできますが、株券などと同じものですから専門の印刷業者へ頼んだ方が無難だと思います。

■ 金融機関からの借り入れより有利

 一般的な融資と少人数私募債を具体的に比較してみます。例えば金融機関から1000万円借りた際、担保が無い場合は保証協会の保証が必要となるケースもありますので保証協会への保証料が必要となり、さらに借入金から前払い利息が差し引かれますので、実際には1000万円がそのまま会社に入ってくるわけではありません。返済も据え置き期間が過ぎるとすぐに発生します。
  こうした銀行への支払いを考えると、事業のためにせっかく借り入れたお金なのに思い切って全額投資することができるでしょうか。心理的にかなりのプレッシャーがかかると思います。月々の引き落としなどを考慮し大事をとると、おそらく実際に事業に使えるお金は借入金額の80%くらいではないでしょうか。
  しかし少人数私募債なら、全額が会社の口座に振込まれる上、最終期限に一括償還するケースが多いので月々の返済を心配する必要がなくなります。利息も1年ごとに後払いするのが一般的なので、資金繰りが非常に楽になります。
  ちなみに少人数私募債の金利は、銀行の預金金利などより高めに設定するのが普通です。しかしこれまで述べてきたように、元金が満額入手できる上、運用コストがほとんどかからない、歩積両建的要素がなく社債利息も後払いということから、実質金利はむしろ低くなります。この点も少人数私募債の大きなメリットです(もちろん減債基金積立ての準備をし、元金の支払い期日がきたら返済するのは当然のことです)。

■ 購入者にとって魅力的な資産運用

 少人数私募債を発行する場合、前項でも触れたように金利を預金金利より高めに設定し、取引金融機関の貸し出し適用金利より低いところで決めるのが一般的です。現在、銀行へ預金した場合の金利と比較すると少人数私募債の金利は何倍にもなりますので、長期の資産運用手段として大変魅力的で購入者にとっては大きなメリットといえると思います。さらに金利にかかる税金が、20%の源泉分離課税ですむという節税効果もあります。

■ 税務上でも有利

 社債利息は、株式配当金と異なり損金扱いになりますので、少人数私募債の支払利息も税務上経費扱いになります。少人数私募債の購入者は20%の源泉税が引かれるだけです。個人の場合は確定申告も不要です(発行会社が国内法人の場合は支払調書を税務署に提出する必要があります)。
  通常、社長個人の会社への貸付金の受取利息は雑所得扱いとなり、他の所得と合算され最高50%が課税されます。しかし、前述したように少人数私募債なら、受取利息は20%の源泉分離課税となります。購入者が高額所得者や資産家の場合、総合課税として20%より高い税率を適用されているケースが多いはずですから、そのような方々にとっても有利な制度といえます。
  なお、少人数私募債の発行会社は、預かった源泉税20%のうち、国税として15%、地方税として5%を、利息支払日の翌月10日までに納付しなければなりません。少人数私募債には税務の透明化という効果もあります。中小企業では資金不足の際、とりあえず社長やその関係者が融通し、借入金として処理することが多いと思います。このような場合、税務上では資金の出所や支払利息が問題になりますが、これも少人数私募債に切り換えることでトラブルを未然に防ぐことができます。
  この他、よく言われる効果として、社内意識が変わることが上げられます。今までは単に雇用関係という感覚であった役職員が、少人数私募債を購入することで会社経営への参画意識、特にリスク管理意識、損益意識が高まり、連帯感が生まれてくるケースが多いようです。